映画・芸術
ナチス映画論──ヒトラー・キッチュ・現代
ヒトラー・キッチュ・現代

本体3000円(+税)
渋谷哲也・夏目深雪[編]
A5判/328頁

978-4-86405-144-6
C1074
2019.12

映画・芸術


禁忌と狂熱の映画史へ
近年、ナチスドイツ/ヒトラーを題材にした映画が多数製作・公開されている。なぜナチスは観客の興味を惹くのか?
プロパガンダにはじまり、戦争責任の追及、悪のイコン、表象不可能性の問題を経て、ナチス表象はいま新たな段階を迎えている。
本書では、戦前から現代までのナチス映画をとりあげ、映像論、映画史、ドイツ史、キッチュ論など多角的な視点から、それらが人々を「魅了」し「熱狂」させる謎、周辺国や演劇などの他ジャンルにおよぶ余波、現在にいたるファシズムの問題を検証する。
世界各国で右傾化、排外主義の波が起こりつつある現在、私たちはナチスの表象から何を学べばよいのだろうか。巻末には主要なナチス映画50作品のガイドを掲載。

【目次】

前書き──二一世紀に増殖するナチズム=渋谷哲也

[I ETHICS - REPRESENTATION]
01 現代の映像環境とナチス映画──ゾンダーコマンドとヒトラーはどこを歩くのか=夏目深雪
02 ホロコースト表象の転換点──『サウルの息子』の触感的経験をめぐって=田中 純
column フェイク/リアルは相反するのか──『帰ってきたヒトラー』=森 達也
03 キッチュで殺せ──ナチス・映画・小市民=生井英考
column ハイル、タノ! 我が生徒たちとのファシズム体験=田野大輔

[II HITLER - GERMAN STUDIES]
04 ナチス時代のドイツ人=田野大輔
05 戦後ドイツにおけるヒトラーの表象──悪魔からコメディアンへ=高橋秀寿
06 ナチスvsニュージャーマンシネマ=渋谷哲也
column 壁の向こうの反ナチ映画──ドイツ民主共和国(東ドイツ)が描いたナチ時代=渋谷哲也

[III AFTERMATH - OTHER COUNTRIES ? THEATER]
07 石鹸と沈黙──イスラエル映画に見る生還者の表象=四方田犬彦
column ジャン=ピエール・メルヴィルの映画とナチス──「待つこと」をめぐって=野崎 歓
08 アイヒマンの同郷人──ピナ・バウシュとナチズムの影=鴻 英良
column クリストフ・シュリンゲンジーフとヒトラー──欲望と注視の再分配=古後奈緒子

後書き──映画批評は生きているのか=夏目深雪
ナチス映画50


本書をamazonで購入


【編者紹介】

渋谷哲也(しぶたに・てつや)
ドイツ映画研究。東京国際大学国際関係学部教授。
著書に『ドイツ映画零年』(共和国、2015)、編著書に『ファスビンダー』(共編、現代思潮新社、2005)、『国境を超える現代ヨーロッパ映画250──移民・辺境・マイノリティ』(共編、河出書房新社、2015)など。また『わすれな草』『あやつり糸の世界』『イエロー・ケーキ』などドイツ映画の字幕翻訳を多数手がける。

夏目深雪(なつめ・みゆき)
批評家・編集者。
映画を中心に演劇やダンスなどについても執筆。『ユリイカ』や『キネマ旬報』などに寄稿。アプリ版「ぴあ」で「水先案内人」。共編書に、『国境を超える現代ヨーロッパ映画250──移民・辺境・マイノリティ』(2015、河出書房新社)、『アピチャッポン・ウィーラセタクン──光と記憶のアーティスト』(フィルムアート社、2016)、『躍動する東南アジア映画──多文化・越境・連帯』(論創社、2019)など多数。

[執筆者紹介](掲載順)

田中 純(たなか・じゅん)
思想史・表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科教授。
著書に『冥府の建築家──ジルベール・クラヴェル伝』(みすず書房、2012)、『過去に触れる──歴史経験・写真・サスペンス』(羽鳥書店、2016)、『歴史の地震計──アビ・ヴァールブルク『ムネモシュネ・アトラス』論』(東京大学出版会、2017)など多数。

森 達也(もり・たつや)
映画監督、作家。明治大学情報コミュニケーション学部特任教授。
テレビ・ドキュメンタリー、映画作品を制作。近年の映画監督作品に『FAKE』(2016)、『i新聞記者ドキュメント』(2019)など。著書『A3』(2010)で第33回講談社ノンフィクション賞受賞、近年の著作に『FAKEな平成史』 (KADOKAWA、2017)、『ニュースの深き欲望』(朝日新聞出版、2018)、『虐殺のスイッチ──人すら殺せない人が、なぜ多くの人を殺せるのか』(出版芸術社、2018)など。

生井英考(いくい・えいこう)
視覚文化論、アメリカ研究。立教大学社会学部教授。
著書に『ジャングル・クルーズにうってつけの日』(1987、2000、2016 岩波現代文庫)、『負けた戦争の記憶』(2000、三省堂)、『空の帝国 アメリカの20世紀』(2006、2018講談社学術文庫)など。

田野大輔(たの・だいすけ)
ナチズム研究。甲南大学文学部教授。
著書に『魅惑する帝国──政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会、2007)、『愛と欲望のナチズム』(講談社選書メチエ、2012)、編著書に『教養のドイツ現代史』(共編、ミネルヴァ書房、2016)など。また「ファシズムの体験学習」という特別授業を実施している。

高橋秀寿(たかはし・ひでとし)
ドイツ現代史研究。立命館大学文学部教授。
著書に『再帰化する近代』(国際書院、1997)、『ホロコーストと戦後ドイツ──表象・物語・主体』(岩波書店、2017)、『時間/空間の戦後ドイツ史──いかに「ひとつの国民」は形成されたのか』(ミネルヴァ書房、2018)、共編著に『グローバリゼーションの植民地主義』(人文書院、2009)など。『善き人のためのソナタ』(ドナースマルク監督、2006)、『バーダー・マインホフ』(エーデル監督、2008)で字幕監修を担当した。

四方田犬彦(よもた・いぬひこ)
映画・比較文学研究家。明治学院大学教授、コロンビア大学客員教授、テルアヴィヴ大学客員教授などを歴任。
著書に『見ることの塩──パレスチナ・セルビア紀行』(作品社、2005)、『パレスチナ・ナウ──戦争・映画・人間』(作品社、2006)、『わが煉獄』(港の人、2014)、『親鸞への接近』(工作舎、2018)、『すべての鳥を放つ』(新潮社、2019)、『聖者のレッスン──東京大学映画講義』(河出書房新社、2019)などが、訳書に『パゾリーニ詩集』(みすず書房、2011)、イルダ・イルスト『猥褻なD夫人』(現代思潮新社、2017)などがある。

野崎 歓(のざき・かん)
フランス文学・映画論。放送大学教授、東京大学名誉教授。
著書に『ジャン・ルノワール 越境する映画』(青土社、2001)、『香港映画の街角』(青土社、2005)、『アンドレ・バザン──映画を信じた男』(春風社、2016)、『夢の共有──文学と翻訳と映画のはざまで』(岩波書店、2016)、訳書にアンドレ・バザン『映画とは何か』(共訳、岩波文庫、2015)など。

鴻 英良(おおとり・ひでなが)
演劇批評家、ロシア芸術思想。
著書に『二十世紀劇場──歴史としての芸術と世界』(朝日新聞社、1998)、共著に『エイゼンシュテイン解読』(フィルムアート社、1986)、『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』(森話社、2014)、『歌舞伎と革命ロシア──一九二八年左団次一座訪ソ公演と日露演劇交流』(森話社、2017)、訳書にアンドレイ・タルコフスキー『映像のポエジア──刻印された時間』(キネマ旬報社、1988)、タデウシュ・カントール『芸術家よ、くたばれ!』(作品社、1990)など。

古後奈緒子(こご・なおこ)
舞踊史、舞踊理論研究。大阪大学大学院文学研究科文化動態論専攻アート・メディア論コース准教授。 論文に「マイノリティのパフォーマンスを引き出すメディア空間──『フリークスター3000』にみる空間の多重化」(『a+a美学研究』第10号、2017)、「批判的反復による失われた舞踊遺産のアーカイヴ」(『舞台芸術』第21号、2018)など。シュリンゲンジーフ作品のドキュメンタリー映像や、主にドイツ語圏の舞台芸術作品の字幕翻訳を手がける。

杉原賢彦(すぎはら・かつひこ)
映画批評、目白大学メディア学部准教授。
編・共著に『サウンド派映画の聴き方』(フィルムアート社、1998)、『ゴダールに気をつけろ!』(フィルムアート社、1998、)、『映画のデザインスケープ』(フィルムアート社、2001)、『アートを書く! クリティカル文章術』(フィルムアート社、2006)など。そのほか、クシシュトフ・キェシロフスキ作品、ジャン?リュック・ゴダール作品などのDVD解説を手がける。