日本文学[古代]
異類に成る   歌・舞・遊びの古事記
異類に成る

猪股ときわ[著]
A5判/304頁
本体6400円(+税)
ISBN978-4-86405-101-9
C1095
2016.10

日本文学[古代]


人はなぜ歌うのか。
古代日本では、歌う行為や歌の言葉によって、動物や植物など人ならざる異類と交感し、異類に成ろうとすることが行われた。『古事記』の歌に、起源譚を喚起し、動物や山川草木に働きかける、神話的思考の発動をさぐる試み。

【目次】

T 異類と王と──牡鹿・雀・猪・蟹
 [1] 異類に成る──「乞食者詠」の鹿の歌から
  1 「異類」とは
  2 食べる─食べられる
  3 殺す─殺される
  4 動物と植物と場所──「はやし」という詞
  5 オホキミとホカヒビト

 [2] 鳥の王・人の王──歌の仁徳天皇
  1 異類の名を負う王たち
  2 「殿戸のしきみ閾の上」
  3 小さなサザキ
  4 鳥のオホキミたち
  5 歌と琴と仁徳天皇
 [3]猪と遊ぶオホキミ──歌の雄略天皇
  1 木登りして歌う天皇
  2 「鳴鏑」という音響装置
  3 猪の「怒」りとウタキ
  4 歌のトポスとしての樹上
  5 変成する「われ」
  6 葛城登山説話の変奏

 [4]応神天皇はツヌガの蟹──異類婚の叙事
  1 蟹に成る
  2 歌の中の「し」
  3 「異類婚」の叙事
  4 イルカと蟹
  5 「ミ・チ」の王

U 歌舞の起源──鬘・手草・御酒・蜻蛉
 [1]アメノウズメの「所作の所作」──『古事記』における芸能の発生
  1 「所作」という視点
  2 ウズメの「為神懸」
  3 音現象を模倣する
  4 双面の媒介者
  5 サルメノ君という名

 [2]酒の起源・舞の起源──「酒楽之歌」を読む
  1 所作と「舞」
  2 『古事記』の「舞」
  3 「御歌」と「答歌」
  4 クルフ・モトホル
  5 トコヨのクシの力
  6 王の誕生とクシの力

 [3]「歌ふ」のは誰か──『古事記』と『日本書紀』の歌人称
  1 歌う天皇・歌わぬ天皇
  2 人称の転換と自称敬語──『記』
  3 人称の転換と自称敬語──『紀』
  4 臣下がささげる「やすみしし わがおほきみ」──『紀』
  5 天皇が歌う「やすみしし わがおほきみ」──『記』
  6 「為朕」に「賦」す──『紀』の蜻蛉野の歌
  7 天皇が「御歌」を「作」る──『記』
  8 起源の世界を生起する
  9 蜻蛉・大猪・女

V 地の域と叙事の力──人草・椿・石槌・葦原
 [1] 草木と人と──『古事記』の神話的思考
  1 「葦原中国」に生まれ、死ぬ
  2 「詛言」の準備としての「青人草」
  3 「あをひとくさ」は「蒼生」の翻訳語か
  4 「わかくさの つま」
  5 植物的生命力のよってきたるところ

 [2]椿はオホキミ・オホキミは椿──歌う女神としてのイハノヒメ
  1 イハノヒメは歌う
  2 オホキミの生命
  3 土地を巡行する
  4 「大恨怒」の力
  5 畑作する「やましろめ」
  6 イハノヒメとは誰か

 [3]重なり合う歌声──神武記歌謡の行為遂行性
  1 歌の叙事と行為遂行性
  2 『古事記』の中で
  3 八咫烏と鳴鏑
  4 宇陀での饗宴──死者の声は聞こえるか
  5 忍坂での饗宴──戦闘はいかにして開始できるか

 [4]葦原の王──神武記のヤマトと地域神オホモノヌシ
  1 地名を負う
  2 地域神オホモノヌシ
  3 揺らぎ続ける地の域
  4 「七行く」ヲトメども
  5 歌うオホクメ
  6 目の鳥と目の人
  7 葦原の王

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【著者紹介】
猪股ときわ(いのまた・ときわ)
1960年生まれ。鎌倉市在住。専門は日本古代の歌・神話の研究。
東京学芸大学大学院修士課程修了、東洋大学大学院博士後期課程満期退学。
現在、首都大学東京人文科学研究科教授。
著書に『歌の王と風流の宮──万葉の表現空間』(森話社、2000)、『古代宮廷の知と遊戯──神話・物語・万葉歌』(同、2010)。