牧義之[著]
A5判/448頁
本体4800円(+税)
ISBN978-4-86405-073-9
C1095
2014.12
日本文学[近代]
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言論統制下の戦前から戦中にかけて活字メディアを埋めつくした不可解な記号群。
×○●△▲□■ヽゝ……検閲をかい潜り作品を世に出すための編集者・著者らの苦闘の痕跡ともいえる〈伏字〉の実態を、広汎な一次資料から明らかにする。
《日本出版学会賞奨励賞・全国大学国語国文学会賞》授賞
【目次】
序章 伏字に出会う 本書の目的、意義と先行研究について
一 街頭の伏字
二 本書の目的と意義
三 検閲制度に関する先行研究
四 各章の概要
T 伏字はなぜ施されたのか──内閲という措置
第一章 伏字の存在意義に関する基礎的考察
一 伏字に関する先行文献と、本章の意義について
二 伏字の様々な形態
三 違和感を喚起する記号
四 伏字の文化記号的側面
第二章 法外便宜的措置としての内閲@ その始まりから運用まで
一 戦前・戦中期における出版法規概観
二 内閲の運用開始時期
三 内閲の関連資料と様々な事例
第三章 法外便宜的措置としての内閲A 萩原朔太郎『月に吠える』の内閲と削除
一 はじめに
二 朔太郎の曖昧な記述
三 正式な処分とは異なる「内達」
四 正式な発行日・二十八日
五 『月に吠える』刊行に至るまでの流れ
六 乙部図書に編入された文芸書
第四章 法外便宜的措置としての内閲B 内閲の終焉と昭和期の事例
一 内閲の機能停止と廃止の発端
二 分割還付の試験的運用と禁止箇所の明示
三 廃止後に行われた内閲
四 内閲復活の希望と検閲制度反対運動
五 内閲と伏字との関連性
第五章 作家の検閲制度意識 永井荷風を例に
一 検閲研究における荷風の位置付け
二 検閲制度に対する荷風の姿勢
三 視点としての「国家と芸術」
四 「祝盃」の伏字
五 傍観する立場
六 『つゆのあとさき』の伏字とその基準
七 『つゆのあとさき』本文の分析
八 作家は伏字をどう見てきたか
U 伏字が引き起こす問題
第六章 森田草平『輪廻』の伏字表記 差別用語と作者の戦略
一 『輪廻』を考察する意義について
二 作品の梗概
三 新潮社版単行本発行に至るまでの事情
四 三種類の新潮社版本文
五 新潮社版単行本以降の本文
六 差別用語の伏字──「文字を、抹殺する」こと
七 水平運動関係者からの反応
八 差別用語の伏字/未伏字
九 糾弾事件と文壇
十 戦後の復刻版、森田のハンセン病に関する知識
第七章 削られた作品の受容と変遷 片岡鉄兵「綾里村快挙録」を中心に
一 『改造』の「鉛版削りとり」
二 再編成された本文
三 初出『改造』における鉛版削除形態の差異
四 鉛版削除が引き起こす問題
五 伏字、削除が意味するもの
六 伏字を解読する行為、書き込み
七 伏字が持つ時代性
第八章 誌面削除が生んだテキスト・ヴァリアント 石川達三「生きてゐる兵隊」から
一 戦時下における言論弾圧の一例
二 『中央公論』の禁止処分、削除をめぐる言説
三 公判記録に表れた禁止処分の根拠
四 鉛版削除の実証調査
五 『中央公論』への内閲
V 検閲制度をめぐる攻防
第九章 発売頒布禁止処分と「改訂版」 昭和五年・禁止本『肉体の悪魔』と『武装せる市街』から
一 戦前・戦中期の検閲に関する官憲資料
二 ラディゲ『肉体の悪魔』の発売頒布禁止
三 黒島伝治『武装せる市街』の発売頒布禁止
四 発売頒布禁止への対応策
第十章 狂演のテーブル 戦前期・脚本検閲官論
一 脚本検閲を考察する意義
二 脚本検閲の変遷と、作家との交渉
三 検閲官Tの立場、二者の議論点
四 「勧善懲悪」の時代性
五 役人としての立場
六 谷崎の脚本検閲批判
七 検閲官の本音
八 「笑の大学」が描いたもの
終章 伏字の戦後 占領軍の検閲と文字起こし
一 戦後の検閲と伏字の禁止
二 読まれる禁止図書、編集者・検閲官という職業
三 文化記号としての伏字
参考文献一覧
初出一覧
あとがき
索引
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【著者紹介】
牧義之(まき・よしゆき)
1983年生まれ、愛知県出身。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。
現在、日本学術振興会特別研究員PD、岐阜聖徳学園大学経済情報学部非常勤講師。日本近代文学、出版メディア史専攻。2012年、全国大学国語国文学会・研究発表奨励賞受賞。
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