日本文学[中世]
中世日本の神話・文字・身体
中世日本の神話・文字・身体

小川豊生[著]
A5判/736頁
本体9200円(+税)
ISBN978-4-86405-061-6
C3095
2014.04

日本文学[中世]


愛染王法をはじめとする密教修法の身体観、中世神話と霊性、梵字悉曇と観想・胎生学、生成する書物などを中心に、中世日本の宗教文化とテキストを探究。神仏が出会い、新たな神話や儀礼、修法などが生み出された混沌たる中世的知のありかを見すえる。

【目次】
序 章 神話の変奏
1 新しい神話の胎動
2 包摂的一神教の誕生
3 世界建立と神話の生成
4 『瑜祇経』と胎生の知

第T部 愛染明王と修法の身体
第一章 愛染王の来歴──十一・十二世紀日本の修法世界と東アジア
1 秘文字の伝承──宇治経蔵の「三衣の箱」をめぐって
2 〈?枳王〉の東アジア──愛染明王の源流へ
3 〈金剛王〉の登場──?枳王真言と不空への遡行
4 尊格〈愛染〉の源流へ
5 不空の水脈──主尊〈金剛愛染〉の誕生と瑜伽の宗教

第二章 院政期王権と修法の身体──愛染王法と如法愛染王法の生成
1 仁海の敬愛法と〈一肘観〉
2 敬愛のテクネー
3 王と密合する護持僧
4 〈如法愛染王法〉と秘儀の構想

第三章 調伏の思想──愛染王法と唯識論
1 呪殺の伝承
2 調伏法のアポリア
3 愛染明王・左第三手の「彼」をめぐって
4 愛染王法と唯識思想

第U部 霊性と神学の十三世紀
第一章 日本中世神学の誕生──『天地霊覚秘書』を読む
1 神学的地平へ
2 「霊覚」考──『天地霊覚秘書』を読むために
3 伊勢を横断する禅語
4 巻末の形式をめぐって
5 御正体と〈無相〉の哲学
6 無門慧開と無本覚心
7 「天童降臨の験者」と袈裟伝承
8 〈大日如来像〉のうちなる〈心御柱〉
9 霊性論へ向けて

第二章 十三世紀神道言説における禅の強度
1 「渡来僧の世紀」と度会行忠
2 禅学用語の神道的転回
3 「神鏡」論と「無相」論
4 〈機前〉の哲学
5 〈空劫已前〉をめぐって

第三章 性と虚円の中世神学──『瑜祇経』解釈学と「識」の霊性
1 〈金輪王〉の開闢神話をめぐって
2 『瑜祇経』解釈学からの視座
3 赤白不二の金輪
4 「識」の霊性
5 最初白浄の一水──実運・親房・禅竹をめぐって
6 阿字と羯羅藍──禅竹的思惟の根源へ
7 円爾弁円と「虚円」の哲学
8 文観房弘真と「虚円」

第四章 赤白二Hのプネウマトロジー──胎生学的知の根源を求めて
1 「異形」論再考
2 内観される〈精〉
3 白浄なるもの──栄西の言説をめぐって
4 赤白二H説の古典学への浸透
5 灌頂儀礼と〈人体の知〉
6 密儀における〈卵〉の形象──「赤白二H」論の余白に

第V部 秘教的世界と神話の建立
第一章 『麗気記』〈天札巻〉と秘教的世界
1 「下々来々」する神
2 天から降りくだるテキスト
3 灌頂儀礼の原像と中世神話
4 夢想する書物──『麗気記』を荘厳する神秘の伝承をめぐって
5 再び灌頂の場へ

第二章 三界を建立する神──北畠親房・度会家行と危機の神学
1 北畠親房における「一神」論の登場
2 世界建立と「異端」の神学
3 三界を建立する神
4 至高の神の「下々来々」
5 聖徳太子の「聖記」

第三章 神話表象としての〈大海〉──中世叡山における大日印文説の生成
1 観想のなかの〈大海〉
2 湖海に沈む脂字──中世神話のトポロジー
3 「大海最底」と無明世界
4 〈金輪〉の表象と儀礼の創出
5 魔性の大海──求聞持法の恠異をめぐって

第W部 文字・観想・身体
第一章 胎内五位の形態学──円形の祉字と瑜祇灌頂の世界
1 〈文字と身体〉論の地平へ
2 受肉の観想──胎内五位と覚鑁
3 円形の祉字
4 実運の五位図をめぐって
5 瑜祇灌頂の世界
6 秘儀の空間と身体の建立
7 虚円宝珠と双円の海

第二章 生殖する文字──梵字悉曇と〈和合〉の精神史
1 『伊勢物語髄脳』と〈和合〉のモチーフ
2 「伊勢」二字説と悉曇学
3 瑜伽の宗教と「不二の玄極」
4 快楽の密教──栄西・慈円・道範における性愛と聖愛

第三章 幻像の悉曇──梵・漢・和三国言語観と文字の神話学
1 文字幻想の中世
2 和語・梵語同祖論の出現
3 世界帝国の崩壊と〈随方言語論〉
4 〈梵言〉としての祝詞──和語意識の変容と中世神話
5 日本悉曇学の変容と「翻訳」のアポリア
おわりに──平田篤胤、あるいは悉曇の彼方へ

第X部 書物の中世
第一章 中世の書物と身体──天台口伝法門の言語論的アプローチ
1 〈直談〉考
2 譬喩と当体──もう一つの言語思想の水脈
3 〈見聞〉というメディア

第二章 偽書のトポス──中世における書物の生成
1 中世叡山と偽書──山王神道をめぐって
2 『麗気記』のトポス
3 神宮秘記数百巻と〈幻像の秘府〉──伊勢神宮の調御倉をめぐって
4 歌学と偽書──《明月記》の幻像と定家偽書の生成
5 有職故実の神話学──〈信西入道庫裏〉というトポス

第三章 儀礼空間のなかの書物──〈啓示のテキスト〉と仮託の構造
1 中世古典学と偽書
2 灌頂儀礼と聖典の創造
3 麗気灌頂と神秘のテキスト
4 〈啓示のテキスト〉と仮託の本質──天道を拝する宝志をめぐって
5 和歌灌頂と秘密書の生成
6 天札と金札──異界からもたらされる書物の成り立ち

第四章 中世叡山と記家の言説──対新羅抗争神話をめぐって
1 『扶桑古語霊異集』をめぐって
2 新羅征討神話と聖真子
3 対馬正八幡と仲哀
4 霊表巻と蒙古襲来

おわりに──建立する中世へ


本書をamazonで購入

【著者紹介】
小川豊生(おがわ とよお)
1953年生まれ。国学院大学文学部文学科卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士課程前期修了。博士(文学、立教大学)。
現在、摂南大学外国語学部教授。専門は古代・中世文学、和歌文学および中世宗教文化論。
編著に、『日本古典偽書叢刊』第一巻(現代思潮新社)、『「偽書」の生成──中世的思考と表現』(森話社)、論文に「和歌と帝王──述懐論序説あるいは抒情の政治学へ向けて」(『和歌をひらく第一巻 和歌の力』岩波書店)、「和歌風俗論序説──〈和歌は我国の風俗なり〉を起点に」(『講座平安文学論究』第十七輯、風間書房)など。